考える坂本

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量子の不思議を平凡に語る

20世紀に発見された量子論はその革新さ故に既存の自然観を覆したといわれる。 多くの言説は「シュレディンガーの猫」や「神はサイコロを振らない」という 魅惑に満ちたキーワードとともに語られることが多い。

本稿では、10の不思議を提示し、あらためて不思議さを共有したい。

目次
1. 「神はサイコロを振る」
2. 「同一種類の粒子は区別がつかない」
3. 「複素数が自然界に存在した」
4. 「生きながら死ぬ猫」
5.「スピノルの発見」
6. 「分裂する粒子」
7. 「光速を超えて働く秩序」 (未、EPRペア・量子エンタングルメント)
8. 「系の状態と観測量の分離」(未)
9. 「超伝導・超流動」(未、ボーズアインシュタイン凝縮)
10.「真空ってなんだっけ?」(未、場の理論)

「神はサイコロを振る」

最も偉大な物理学者の一人であるアインシュタイン量子論を批判して「神はサイコロを振らない」という言葉を残したといわれる。しかし多くの実験では「神はサイコロを振る」ことが確かめられている。

もし、同一の物理的状況を設置できるのであれば、何回か(粒子の位置などの)観測量を測定すれば、毎回同じ値が得られると期待するのは理性にかなうだろう。しかし量子論ではこの期待は裏切られる。同一の物理的状況で同一の実験を行っても得られる値はバラバラであたかも「神がサイコロをふるって」値をランダムに選んでいるように見える。

もちろん完全にランダムというわけではない。平均値や分散値などの統計的値であれば量子論は正確にそれを予測することができる。

「同一種類の粒子は区別がつかない」

我々は素粒子の一つに電子があることを知っている。二つの電子が近くにある場合、この二つは区別することができるだろうか?古典論では確実に肯定的にこたえられる。すなわち片方に A、もう片方に Bという名前を付けて、二体問題として運動方程式を書き下しそのダイナミクスを記述できる。Aの物理量とBの物理量は明確に区別される。

しかし量子論ではこの描像は当てはまらない。同種粒子が存在する場合は、系の波動関数に対して制約がかかる。すなわち粒子の交換という操作に対して系の波動関数が対称もしくは反対称であるという制約がかかる。どちらの制約を受けるのかは粒子の種類に依存する。反対称の制約がかかる場合フェルミ粒子と呼ばれ、対称の制約がかかる場合ボーズ粒子と呼ばれる。ちなみに電子はフェルミ粒子である。光子はボーズ粒子である。

非常に多くの実験がこの制約が存在することを支持する。すなわち「自然は同一粒子を区別できない」ように振舞うことが知られている。なお、この世界は5種類のボーズ粒子と12種類のフェルミ粒子でできているといわれている(素粒子論の標準模型による)

複素数が自然界に存在した」

我々は数学の世界において虚数があることを知っている。しかし自然界に虚数複素数があることを知っているだろうか?たしかに、現存する多くの物理理論は複素数を用いて理論を構成する。しかし、複素数の導入は計算上便宜的に導入されただけであり、実数のみを用いて理論を構成できるはずだ(不勉強もあるので断言はできない)。

実際、自然界にあふれる物理量、それは全て実数である。温度、位置座標、速度、電圧、風速、エネルギー、熱量、振動数、群速度、エントロピー、等々。

しかし、量子論は違う。量子論の基礎づけにはいくつかのバリエーションがあるがどれも必ず虚数を要請する。それに応じて、波動関数などの物理的実体にも複素数が本質的に表れる。すなわち自然界で虚数が本質的に要請されるのは量子論によってなのである。いまや虚数は想像上の存在ではない。自然界にあまねく存在する。

「生きながら死ぬ猫」

古典論では互いに排他的な状況において排中律が成立する。すなわち、「生きている」という状態と、「死んでいる」という状態は互いに排他で、「生きている」かつ「死んでいる」という状態は存在しない。生きているか死んでいるかのどちらかである。これを排中律という。

量子論では、系の状態に排中律が成立しない。すなわち「生きている」状態と「死んでいる」状態が共存しうるのである。もちろん観測によって「どちらですか?」という観測をすればどちらかに確定する(収束するという表現をとる)。

シュレディンガーはこれを箱の中に入った猫になぞらえてその奇妙さを指摘した。しかし自然界はこのようにできているのである。

「スピノルの発見」

スカラー・ベクトル・テンソル、これらは数学であるが、物理学でも当然使う。このようなベクトル演算の論理ははるか昔から発達してきていたが、20世紀にぽっとでた量子論において、スカラーでもベクトルでもテンソルでもない量を発見してしまったのである。これはスピノルと呼ばれる。スピノルは半ベクトルとも呼ばれ、スピノルを組み合わせるとベクトルのように振舞う。

長年研究された数学のテンソル演算において、スピノルのような新たな種類の数が発見されなかったのは非常に珍しいといえよう。物理学者が自然界にスピノルがあると発見したのである。

「分裂する粒子」

粒子の前に紙を置くと、粒子は紙に遮られ紙の裏側に突き抜けることができない。ここで紙に二つの穴をあける。すると粒子はこの穴を通って裏側に突き抜けることができる。当然粒子は、どちらかの穴を通ったと推定されるわけであるが、量子論によると、一つの粒子が「両方の」穴を通ってきたとしか考えられない挙動(干渉縞)を示す。これは 100個の粒子のうち 50個が片方の穴に、50個がもう一方の穴を通ったということではない。100個の粒子のうち 100個の粒子が両方の穴を通ったと解釈する以外説明ができないのである。これは粒子の波動性を示す顕著な例で二重スリット実験と呼ばれる。